地域医療の実践者として地域完結型循環医療の仕組みを推進し、21世紀型医療サービスを牽引していきます。
医療法人社団 鴻鵠会理事長 城谷 典保
現在、日本の医療サービスは「キュア」から「ケア」へのパラダイムシフトの転換期にあります。これは”病院の世紀の終焉”とか”健康戦略の転換”と言い換えてもいいかもしれません。 急性疾患患者の多かった20世紀は”病院の時代”とも呼ばれ、病気の治癒を目指す「根治的治療」が重視視されてきました。 しかし、超高齢社会である21世紀では、生活習慣病などの慢性疾患患者が増加しています。急性疾患と異なり、慢性疾患は急性期病院という高度治療病院だけで治療が完結することはなく、症状を最小限に抑えながら、病気と共存しながら生活を営むことが求められているのです。そのため、医療と介護・福祉、そして地域社会が連携する包括的な医療システムを社会インフラとして整備して、地域での継続的な医療を行っていく必要があると考えています。
また、国民の60%以上が自宅での療養と看取りを望んでいるにもかかわらず、在宅看取りは現時点では12%にとどまっています。2040年には、死亡者数が今より約40万人増えると言われていますが、現状では、その人数を病院や施設に収容することや看取ることは不可能です。千葉大学の高林教授は、「大きな津波が押し寄せてきている」と表現していますが、津波は押し寄せると同時に引くわけです。いわゆる、この世代から次世代に移れば人口構造が変わる訳です。今までのような、右肩上がりの箱物行政では対応できないのです。
入院医療、予防を含む外来医療はすでに我が国の医療に根付いています。これからの医療に求められるニーズは、いかに自宅で治療やケアを受ける環境を作るかであります。それが、最近新聞の紙面を賑わせている在宅医療、在宅ケアなどの言葉です。一般の人たちには事の重大さは判り難いと思いますが、実際は医療構造の大きな変革の時期にきていることを象徴する言葉なのです。
もちろん、世界に負けない高度の医療技術を蓄積する医学研究や医療産業を発展させる必要はあります。しかし、医療や介護、福祉を国民に対する健康関連サービスとして捉えた場合、多くの国民に平等にサービスを提供する仕組みが必要であります。そこには、費用対効果という考え方もあるかもしれませんが、人間の生存権に影響する問題でもあり、まさにこの国の医療はどうあるべきかを考えていく必要があるのです。
誰もが簡単に答えを出せる課題ではありませんが、これからの日本の医療制度を冷静に考えれば、国民皆保険制度であっても超高齢社会の中である程度の医療サービスは健康保険でカバーされ、それ以外は各自の費用負担として支払う必要が生じる可能性があります。これは、混合診療という言葉で表せられますが、現時点では法的に規制されています。しかし、これからは、避けて通れない問題なのではないでしょうか。
また、高度急性期病院→亜急性期病院、慢性回復期病院→外来医療→在宅医療、在宅ケア→介護施設、福祉施設など患者の病態や生活支援の程度に応じて施設を移る循環型医療体制の構築が必要だと考えています。病院などの自己完結型医療ではなく、地域完結型循環医療の仕組みを我が国の医療体制に導入していく必要があるのです。目先、必要なのは在宅での療養環境の整備です。この分野の育成なしに地域循環型医療システムは成立しません。それほど、今は在宅医療や在宅介護が必要とされている時代なのです。これからは、地域連携が極めて重要なキーワードになってくると考えています。
鴻鵠会は、21世紀型の医療サービスのあり方を提案する地域医療の実践者として、予防から外来医療、在宅医療から在宅ケア、介護、福祉と切れ目ない地域連携の一翼を担うことにあります。
我々の医療活動が地域医療を支える要になると信じています。
医療法人社団 鴻鵠会 理事長城谷 典保
その他、分担執筆・論文100編以上。